第5話 その3 商談
横山からは「先週お伺いしたときに、京都OAさんからも話を聞かれるとおっしゃっておられましたが、どうでした」と競合の動きをズバリと問いかけた。
関根は「さすが横山は大胆に聞くな」と心で感心した。
富山部長が「京都OAからもいいコピー機を紹介されてくれまして、コストもヤマトさんよりだいぶ安いので迷いますね」と笑いながら答えた。
「そうですか。弊社の場合、他社との表面上のコスト差はどうしても出てしまいます。その差にどのような意味があるかを、これからお伝えさせていただきます。多分次回京都OAさんが来られたら、ヤマトはアメリカの会社と技術提携して多額のロイヤリティーを払っているからコストが高いというようなことをお話しされるかと思います。」
箕輪課長が身を乗り出して、「そうなんですか」と聞いてきた。
横山は答えた。「その通りです。これは事実です。でもただロイヤリティーを払いっぱなしということではないんです。アメリカの先進的な企業と提携することで、特許に守られた優れた基本技術を使えます。だから、特許をかいくぐることに人手を使う事なく、その応用に注力することができます。具体的には、基本技術開発にかかる人手とコストを日本の気候や日本人特有の使い方に合わせたカストマイジングに投入しています。日本なりの技術と工夫を加味して製造しているということです。保守サービスの仕方や修理用工具・パーツも次々と新しい技術を開発しています。だから、日本の風土に合った製品と今のレベルの保守サービスが実現できていると自負しています。でも本当のところは、お客様に聞かないとわからないですが。箕輪課長、弊社の保守サービスについてこの辺りどう感じていますでしょうか」
「確かにヤマトさんの保守サービスは、速さ・サービスマンの質ともレベルが高い感じがします」
「箕輪さん、他社と比べて本当に違うのかね。確か品質保証課で京都OAさんのコピー機を使っていたね」
「富山部長、やはり違いますね。ヤマトさんは、修復までが早いからでしょうか、終了後に、いつもサービスマンの方が故障の原因と注意事項をわかりやすく説明してくれるみたいです。品質保証課のオペレーターが言っていました」
横山はさらに続けた。「また、新たなコピー機の活用管理方法の開発にも取り組んでいるのですよ。例えば、コピー用カードを使った無駄な使用の防止システムです。これは今回の提案に盛り込むつもりです」
「それはいいねえ。総務課としては、無駄コピーは、なんとかして減らしたいところだからね」
「次回は今まで伺いました御社のコピーの使い方とご要望に合わせたコピーを関根の方から提案させていただきます」
富山部長は納得した様子で「なるほど、技術提携の意味はあるということですね。よくわかりました。弊社の使い方と信頼性という観点も踏まえて、これから検討させていただきます。提案書期待していますよ」と返答され、商談は終わった。
この商談後、関根と横山は、駐車場の車の中で、10分ほど今後の進め方について打合せした。「提案書作成は、俺も手伝うから、今日は後3社回ったら、早めに帰社して提案書作成に取り掛かるか」。「よろしく頼むよ、横山。しっかりした提案書作らないとな」と関根は答えた。
≪Release Date 2022/10/22≫