営業冒険物語 第9話 京都西染工 その4「BANTESAT」

第9話 その4「BANTESAT」

翌朝、関根は気持ちよく目覚めることができた。早めに出社すると、佐久間課長も早めに来て、関根を待っていた。提案書提出の納期も迫っていたので、心配していたようだった。

関根は、早速佐久間課長に昨晩作成した提案書を見せた。

「ほー、フットスイッチねー。いいアイディアだな。これなら現場の業務改善に繋がるし、京都OAとの差別化もできるな。じゃあ、提案のアポイントメントを取るか」。

早速、関根は、京都メディカルラボの山西総務課長に電話した。

「ヤマトさん、連絡ないからもう諦めたかと思ってました。今週が提案の刻限ですね」。

「連絡が遅れ、済みませんでした。御社の現場を回って、改めてコピー機の使い方を確認していましたので、すっかり遅くなってしまいました。なんとかご提案書にまとめることができましたので、今週中にお持ちしたいと思います。寺田部長と山西課長、お二人のご都合が着く時はありますでしょうか」。

「ちょっと待ってください。それでしたら明後日木曜日の午後3時からでしたら、部長も大丈夫です」。

「ありがとうございます。私どももその日時でしたら大丈夫です。では、木曜日の午後3時に上司と一緒に伺います。よろしくお願い申し上げます」。

関根が受話器を置くと「関根、いいタイミングでアポが取れたな。いよいよ勝負ってわけだ。負けられないな」と佐久間課長が話しかけてきた。

「はい、ここまできたら、なんとしても守り抜きたいです」

「じゃあ、提案書以外の要因も含めて、これからこの解約防止案件の状況をBANTESAT(バンテサット)で考えておさらいしてみるか」。

「はい、佐久間課長よろしくお願いします」。

「まずBudget(予算)は問題ないな。そもそも今の経費予算は確保できているからな」。

「はい、そうですね」。

「次は、Authority(意思決定ルート)だな」。

「これは、意思決定者としては、寺田総務部長です。取締役でもありますし、トップから任されていると、初回面談時に断言されてましたから間違いないです。検討者の山西課長から意思決定者の寺田部長というルートですね」。

「じゃあ、今のまま山西課長、寺田部長のラインに対する活動を続けていこう」。

「影響者はどうだ」。

「現場の各責任者との関係性は作れましたので、寺田部長から問い合わせが入ったら、うち寄りの話はしてくれます」。

「Needs(ニーズ)はどうだ」。

「ニーズに関しては、検討と決定部門の総務は、コストダウンです。でも寺田部長は、単に安いことを望んでいるのではなく、継続的でトータルなコストダウンを志向していると思います」。

「現場は、各使用部門によって違いますが、どれも作業の効率化を強く求めています。これも一過性の機能紹介ではなく、継続的な提案活動がないと不十分です」。

「そうか、ここは後でSolutionを確認するときに再度考えてみよう」。

「Timing(導入するタイミングや逼迫度)はどうだ」。

「ここは微妙ですね。京都メディカルラボに今コピー機を総取っ替えしなくてはならない理由はないと思います。多分、京都OAから、特別価格といった形で、納期を切られているのかと思います。引き伸ばしも可能ですが、そうするとうちへの心証が悪くなる可能性はあります」。

「そうだな。ここは、京都メディカルラボさんのペースに合わせることが大切だな」。

「Environment(お客様の事業環境)はどうだ」。

「それについては、京都メディカルラボ様の業績は、継続的に伸びています。主な顧客は、病院、人間ドッグ、研究機関ですが、病院、人間ドッグからの検査が大きく伸びています。どこからも早い検査結果の提出が求められているますので、作業の効率化ニーズは強いです。また、新検査棟建設も予定されていますので、投資意欲も大きいです。コピー機以外のビジネスチャンスが出てきる可能性は高いユーザーです」。

「わかった。なおさら負けられないな」。

「じゃあ、いよいよSolution(提案内容)だ。改めてニーズと照らし合わせながら、京都OAの提案内容も予測しながら進めていこう」。

「はい、よろしくお願いします」。

「まずは我が社からの提案内容だが、フットスイッチだけで、押し切れるかな。ちょっと弱くないか」。

「うーん、言われてみると、そうですね。困ったなー」。

「それだったら、うちの場合、大手企業に対しては、メンテナンスサービス課の吉田課長の協力を頼めるから、今後4半期ごとに、レビュー&プレゼンテーションを行うことを、提案に盛り込むか」。

「課長、レビュー&プレゼンテーションってなんですか」。

「多くの台数を使ってもらっている大手ユーザーに対して、メンテナンスサービス課長と担当営業、営業マネジャーが、使用現場での各マシンの稼働状況と問題点、対応策をお客様の意思決定者に対して報告して、ディスカッションすることだ。稼働状況と問題点を振り返って、対応策を提示した上で、話し合うということだ。今回は、その中に、継続的なトータルコストダウンもテーマとして設定したらどうだ。大変なテーマではあるがな」。

「京都OAは今使用しているうちの機種に相当する機種を当てて、価格を大幅に引き下げるだけの提案になっているようですから、うちの提案にレビュー&プレゼンテーションが入ると、人件費も含めた継続的なトータルコストダウンという寺田部長の思いと合致するかと思います。その意味で、 かなりのAdvantage(競争優位性)になると思います」。

「価格的には、京都OAほどは下げられないから、向こうにアドバンテージはあるが、京都OA以外の他社機の3台も含めてなら、京都OAに近い価格条件を出せるから、京都OAのアドバンテージを小さくすることはできるぞ」。

「はい、佐久間課長ありがとうございます。なんか勝てそうな気になってきました」。

「最後に、Time schedule(お客様内部での購買ステップの進捗具合)は、大丈夫か」。

「はい、寺田部長はうちの提案を聞きたがっていますので、明後日の提案までに、決まってしまうようなことはないと思います」。

「そうか、これでBANTESATも確認できたし、後は、提案の裏づけ資料を充実させておくか」。

「はい、課長。後は任せてください」。

関根は、そう言うと早速提案書の裏付け資料作成に勤しんだ。

≪Release Date 2023/05/27≫

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