営業冒険物語 第6話 ライバルとの戦い その9「社長へ」

第6話 その9「社長へ」

関根は、持込デモのフォローのため、洛西染工を訪ねたおり、思い切って社長秘書に大和田社長への面談を申し入れた。秘書から社長に取り次いでもらうと、明日8:30だったら30分時間が取れるとの返事だった。

翌朝、8:20に洛西染工を訪ねると、大和田社長は既に出社して、執務していた。

社長室に入ると社長は不機嫌だった。挨拶が終わると大和田社長から次の言葉が投げかけられた。

「ヤマトさん、私に直接話したいということだけけど、なんの話。コピー機の選定は、総務課長の木村さんに任せてあるからね。」

「いつも木村課長には、お世話になっています。木村課長には厳しくも温かく接していただき感謝しております」

「それだったら、木村課長が出張で不在の時に、私のところにわざわざ来ることないんじゃないか。京都OAさんは、先日支店長さんと一緒に挨拶に来たけど、事前に木村課長を通じて面談の依頼があったよ」

大和田社長の不機嫌さは、木村課長を飛び越えて面談に来たことだったのだ。

「はい、どうしても早く大和田社長に直接お目にかかりたかったので、木村課長のお戻りを待ちきれませんでした。木村課長には、改めてお詫びさせていただきます」

関根は、丁寧に言葉を選びながら、失礼を詫びた。

大和田社長は気を取り直して、「そうまでしての話を聞きましょうか」といってくれた。

「はい、今回コピー機の選定を指定いただく過程で、御社の中で各部門の皆様から色々なお話をお聞きしました。最初は、御社の事務業務の改善に着目していましたが、そうするなかで御社のこれからの事業のことを考えるようになりました。そうすると染色業界全体のことが知りたくなって、図書館に行って色々と調べて来ました。

各社様とも、日常の和装離れとブライダルの洋式化により、今の着物中心から、別の事業の方向性を模索されているかと思いました。そうこうするうちに、私も単なる事務業務ではなくて、御社の今後の成長にお役に立ちたいと思い、社長のお考えを聞きたくなりました。ひょっとすると、子供用にシフトすることをお考えなのかと推測しました」

「そんなこと考えていたのか」大和田社長は、意外そうにつぶやき、話し出した。

「実は、君の考えた子供用へのシフトはもう取り組みを始めている。他社は、暖簾や法被など一般的に使われるものを手がけ出している。こちらは、競争が厳しくて価格競争になることは目に見えている。それと、うちが今まで150年に渡って培って来た図案や手書きの技術を活かせるとは限らないからな。」

「そうなんですね。実は田中主任からも子供用の柄を書き出していることを先日お聞きしました」

「そうか、田中さんと話したのか。田中さんには、今までうちが蓄積して来た柄と動物のイラストを組み合わせた図案を考えてもらっています。かなりいいものが出来そうでね。期待しているんだ」

「先日少し拝見させていただきました。田中主任は、これまでの図案と動物やキャラクターと融合させることを試行されていました」

「ところで社長として、洛西染工様をこうしていきたいと言うような未来に向かっての構想ってあるのでしょうか」

大和田社長は、関根の問いかけに驚きながらも遠くを眺める眼差しになった。

「意外なこと聞いてくるな。そうだなー、うちは創業150年の老舗染色工場だからな。5代目の私としては、歴代の先祖が幕末から積み上げて来てくれた洛西染工を未来に向けてもっと発展させていきたいんだ。単に売上規模が大きいとかじゃなくて、社員が生き生きと働いて、同業他社が羨むような会社にしていきたいと思っている」。

この後、大和田社長は自らの未来への思いを滔々と語ってくれた。この間約15分、関根はひたすら傾聴した。

「大和田社長、ヤマトビジネスマシンができることは限られているかもしれませんが、社長の夢の実現に向けて少しでもお手伝いさせていただけませんか」

「随分、大きく出たな。まあ、今の調子で弊社の取り組みとそこで起こる問題を見つけて解決する手伝いをしてください。ヤマトさんが有しているノウハウが何かの役に立ってくれれば、うちとしてもありがたいよ」

大和田社長はすっかり打ち解けてくれた。

「コピー機の提案も持って来たのだろう。ざっと聞こうか」

この後、関根は持参した提案書を説明し、デザイン部の手書き工程部分では、特に突っ込んだやりとりができ、ヤマトが洛西染工の事業に役立てることをしっかりと伝えることができた。

最後に大和田社長から「今日のことは私から木村課長に伝えておくから。最終決定は木村課長から連絡が行くと思います」と言われ、面談は終わった。

振り返ると、既に2時間が経過していた。手応えのある面談となった。

≪Release Date 2023/01/07≫

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