営業冒険物語 第6話 ライバルとの戦い その3「解約」

第6話 その3「解約」

関根は、京都OAの動きが気になっていた。翌朝から担当する50社のユーザーに片っ端から電話してみると、なんと、ほとんどのユーザーに京都OAから攻勢がかけられていたのだ。持込デモがされているユーザーは、洛西染工を含めて10社にのぼった。

上司の村山課長に報告して、ヤマトビジネスマシン京都支店の各課から情報収集してもらうと、他では同じような動きはないとのことだった。

「村山課長、どうも私のところだけ狙われている感じがしますがどう思いますか」

「そうだな。京都OAの他の部隊では特別な動きはないようだし、狙われたことは間違いないな。しかしどうして関根なんだ。お前、なんか心当たりあるか?」

「いえ、全くないです。でも横山から私に担当が代わったことが、漏れていたように思えます。それしか考えられません。ただ、今はまずは火消しが第一ですから、ユーザーフォローに全力を挙げます」

「関根のユーザーだけど、まずはうちの課のメンバーの力も借りて、緊急のユーザーフォローをするから、安心しろ」

「課長ありがとうございます。お客様を落ち着かせることができたら、しっかり勝負できますから、なんとか止めてきます」

その日から、関根の所属する1課のメンバー6名の協力を得て、50社のユーザー全てを緊急フォローした。

持込デモがされていないユーザーは、動揺しているところはなかったが、持込デモ先10社は、全て不安定化していた。

大手担当者研修に行っている前任の横山に電話して聞いてみると、この10社は京都OAとつながりのあるユーザーで、元々不安定化しやすいところだった。

1課のメンバーに、洛西染工での関根のトークを伝授して、緊急フォローではまずはじっくり検討することの必要性を説いてもらった。

その結果、10社の内9社は、じっくり検討することになった。しかし、1社はすでにコピー機代替の社内稟議が回っている状態だった。先日の洛西染工と同業の京都西染工だった。

関根はメンバーが訪問してくれた翌日に京都西染工に訪問した。面談したのは、取締役総務部長の河瀬役員だった。

開口一番、河瀬部長から「ヤマトさんには、申し訳ないけど、今回は京都OAさんに切り替えさせていただきますから」と告げられた。さらに「今回は、京都OAさんから破格の条件をいただきましたのでね。昨日も慌ててヤマトさんに訪問いただいたけど、もう決まったことだから」と関根が取りつく島はなかった。せめて、京都OAの条件について聞き出そうと食い下がるが、河瀬部長からは「実は当社の会長と京都OAの会長とは幼馴染なんです。だから、会長からは、『なぜ京都OAを使わないんだ』とよく言われてましてね。我々社員としては、今回のような条件を出されたら、会長にも言い訳ができないというわけです」とトドメを刺された。

関根はうなだれて帰路についた。関根にとって、初めての解約だった。今まで新規開拓で失注したことは多々あったが、今回はヤマトビジネスマシンの大切なユーザーを失ったのだ。大きな喪失感を味わった。思考停止となり、車を止めた。1時間ほどのうつらうつらの放心状態が続いた後、思考力が蘇ってきた。

関根が狙われたのは間違いない。情報リークがあったのだ。誰が漏らしたのか、怒りが湧いてきた。しかし、今はこのことに関わっている時間はない、まずは、これ以上の解約を出さないことだ。そしてこの危機をチャンスに転じることだ。上京区での苦闘が関根を自分でも驚くほど強くしていたのだ。

今回を乗り切れば、担当ユーザーの不安定要因は一掃できる。ユーザー内でのファクシミリやPCの拡販が可能となる土壌ができる。

自分の営業スキルも磨かれる。そしてもう一つ、京都西染工の会長の話から自分の営業スタイルを進化させるヒントを得たのだ。

お客様のトップと関係を作ることが営業活動の大きな武器になるということだ。まだどうしたらいいのかはわからないが、この道を切り開いていきたいと思った。

≪Release Date 2022/11/26≫

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