営業冒険物語 第6話 ライバルとの戦い その1「情報リーク」

第6話 その1「情報リーク」

ヤマトビジネスマシンの最大のライバルメーカーは、株式会社ムサシOAである。京都OAは、その系列販売会社であり、そこのトップセールスが山本実だ。山本は、京都出身で、新卒でムサシOAに入社し、今は京都OAに出向していた。

関根や横山とは同年代、会社は違うが同期という形になる。

担当地域は、関根とほぼ同じ京都市西京区と亀岡市。今まで横山と同じ面で熾烈な戦を繰り広げていたわけだ。

関根と横山が同行していたころ、京都OAの山本は、ヤマトの抜け目のない1年後輩太田裕也と喫茶店でお茶していた。

「そうですよ。今度の関根さんは、最下位セールスですよ。異動が発表された時は本当にびっくりしました」

「へー、そんな人が横山さんの後任ですか。ヤマトさんの京都支店長も人を見る目がないようですね。そんなダメセールスを横山さんの後釜に据えるなんてね」

「そうなんですよ。だぶん、ごますりしたんだと思いますがねー」

なんと、山本と太田は、今度の関根の支店内異動の話をしていた。競争相手の営業マン同士が喫茶店でたわいもない話をすることはよくあるが、太田は無節操にも自社の人事情報をリークしていた。横山の後任は、自分がなるものと思っていたところ、そうではなく関根が抜擢され、その憤懣が抑え切れなかったのだ。

「そりゃもったいないことするねー。まあこちらは、横山さんの後任がそんなダメ営業だったら、助かりますよ」

京都OAの山本は、太田の不満を煽りながら、太田から関根がどんなにダメな営業マンか聞きだしていった。

「山本さん、せいぜいがんばってくださいよ。西京区と亀岡市のお客さんがガタガタになって、うちの上も初めて気づくでしょうからね。ただ僕からこんな話聞いたことはくれぐれも内密でお願いしますね」

「大丈夫、わかってますよ。社内でも話しませんから。ところで、この前紹介したレストランどうでした」

「いやー、美味しかったですよ。彼女と盛り上がりました。ありがとうございました」

この後、いつものたわいのない会話をしばらくして、2人は喫茶店を後にした。

山本は、京都OAのオフィスに戻ると、上司の佐々木課長にこの情報を早速報告した。

「佐々木課長、ヤマトのアホ営業マンから重要な情報を聞き出しました。西京区と亀岡市担当の横山が大手チームに異動になったそうです。売れないセールスが後任になったそうです。なんでもつい最近までヤマトの全国順位で最下位だった奴みたいです」

「山本、いい情報聞き出したな。横山が大手チームに入ったということは、ヤマトの大手シフト戦略を物語っているな。しかし後任は、本当にそんなダメセールスなのか?」

「聞いた奴も結構アホセールスですから、すべて鵜呑みにはできませんが、自分が後任になると思っていたら、そうじゃなかったので、妬んでリークしたのだと思います」

「まあ、今度の担当者がどこまでやるか。一度攻勢かけてみるか」

「はい、西京区と亀岡市のヤマトユーザーを洗い出して、狙い先を決めて持込デモ(1週間程のコピー機のお試し使用)攻勢をかけてみたいと思います。デモ用マシーンをこれから2ヶ月くらい優先的に使わせてもらえますか。それとリース残金負担用の販促費も使わせてください」

「あー、わかった。販促部とメンテナンス部の部長に話を通しておくな。思い切ってやってみろ。今まで攻略できなかったユーザーを落とせるかもな」

≪Release Date 2022/11/12≫

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