営業冒険物語 第2話 配属先の京都支店での1号機販売までの活動 その1 お願いセールス

第2話 その1 お願いセールス

11月に入ると京都の街は、紅葉の季節が始まる。観光客も増え、街は活気に溢れる。関根の京都営業所での営業活動ももう直ぐ1ヶ月になる。当初の受付すら突破できない状況は改善され、関根も担当者との面談はポツポツできるようになった。

関根の担当地域は、京都の中心街である中京区の烏丸通りから西のすべて。かなり広い。ただし、すべての会社が対象となるわけではない。関根は新規開拓専門だから、ユーザーは別だ。ノンユーザーでも、規模の大きい会社や官公庁はベテラン営業が担当しているので、ここも対象ではない。関根は、観光客を横目にしながら小規模の企業を中心に飛び込みを続けていた。だいたい1日40-50件くらい訪問する。大山から教えてもらった通り、過去のお客様カードをチェックして、受付で担当者を呼び出してもらうと、担当者も空いている時は会ってくれた。10件ほどの面談を毎日こなす日々だ。1日じゅう歩くので疲れる。雨の日はなおさらだ。その分すごく仕事している気分にはなる。

担当者と会えた時は、1週間の持込みデモ(1週間程のコピー機のお試し使用)のお願いだ。これがなかなかOKしてもらえない。そもそも買う気がないのだから、お客様だって面倒だ。持ち込んだらセールスされることは目に見えているし。

それでも3日に1件くらいは持込みデモの了解が取れる。拝み倒す感じだ。2−3日後に喜び勇んでコピー機を持ち込むのだが、いつも当初の約束通り1週間で搬出することとなる。ということは、商談もほとんどないということだ。実は、関根はまだ一度もまともな商談をしていないのだ。

「なんかお願いセールスばっかりだなー。研修で習った7つのステップと、現場の活動は随分違うな」、観光客が増えた四条通りを西に向かって歩きながら、関根は呟いた。「毎日ヘトヘトだけど、商談がないから、何も身についてないような気がする」。楽しそうに街を闊歩する観光客に比べ、関根の歩く姿は、猫背で覇気がなかった。

確かにそうだ、同期で一緒に配属になった隣の係りの横山浩二は、既に2台も売っている。横山の担当地域は、伏見区なので車があてがわれ、歩きの関根に比べると楽そうだった。「横山のところはテリトリーがいいからな。車もあるし」と関根は勝手に思い込んでいた。

≪Release Date 2022/05/28≫

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